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特集 国際会計基準(IFRS)の適用に向けた企業不動産の公正価値測定を検証する

国際会計基準(IFRS)の適用に向けた企業不動産の公正価値測定を検証する

世界で国際会計基準(IFRS)の採用が進んでいる。日本でも強制適用となる可能性はきわめて高く、待ったなしの状況といえるだろう。IFRSが導入された場合、企業の保有不動産は時価で判断されるようになるため、企業経営全般に大きな影響を与えることになる。IFRSとはどのような会計制度なのか、企業はどのような対応を求められているのか。公認会計士の原田昌平氏と不動産鑑定士の村木信爾氏がそれぞれの立場から語った。

原田氏と村木氏

早ければ2015年より国際会計基準が強制適用

――国際会計基準(IFRS)の導入について、議論が重ねられています。まず、IFRSとは何かについて教えてください。

原田
IFRSとは世界共通の
会計基準です。2005年に欧州連合(EU)の上場企業で導入されるようになってから一気に普及が進み、現在では世界の100カ国以上が採用しています。米国でも導入へ向けて動いており、近いうちにIFRS採用国は150カ国に達するともいわれています。
IFRSには3つの特徴があります。ひとつは「資産・負債アプローチ」です。資産・負債アプローチとは純資産価額の期首と期末の変動を計算し、それを損益ととらえるという、いわばバランスシートを中心とした考え方です。これまでの損益計算書中心の会計基準から、180度転換することになるでしょう。
2つ目の特徴は「公正価値」を重視する点。「取引知識のある自発的な当事者と、独立した第三者の間で成立する価格」が公正価値です。時価主義的なコンセプトを持っているのが特徴といえるでしょう。
3つ目の特徴は「原則主義」。原理・原則に重きを置いて、細則や数値基準は示さないという考え方です。ルールに縛られない一方、会計基準を正しく理解した人材の育成や、判断の根拠を示す責任などが課せられるようになります。
日本では07年に企業会計基準委員会(ASBJ)が国際会計基準審議会(IASB)と会計基準のコンバージェンス(収れん)について合意しています。今年6月には金融庁の企業会計審議会がIFRS導入のためのロードマップを承認しました。10年3月期よりIFRSの任意適用を認め、12年には強制適用するかどうか最終的な判断を下します。強制適用する場合は、15年もしくは16年より適用が開始されます。

新日本有限責任監査法人  不動産セクター日本エリアリーダーシニアパートナー  公認会計士  原田昌平氏
新日本有限責任監査法人
原田昌平氏

中長期的な計画の策定が必要  経営の重要課題と認識すべき

賃貸等不動産の時価評価をCRE戦略策定のきっかけに

――10年3月期末の決算からは賃貸等不動産の時価開示が義務付けられます。IFRSの導入など会計制度が大きく変化していくなか、企業経営や不動産戦略はどのような影響を受けるでしょうか。

大和不動産鑑定株式会社  不動産コンサルティング部  部長  不動産鑑定士  明治大学大学院  グローバル・ビジネス研究科  特任教授  村木信爾氏
大和不動産鑑定株式会社
村木信爾氏

村木
注記による賃貸等不動産の時価開示は10年3月期末以後に終了する事業年度より適用されます。これまでは取得価格に基づく原価を開示するだけで済んでいたのが、賃貸不動産や遊休不動産について、将来の賃料を基に計算した価値などを時価として開示する必要が出てきます。
そのために自社がどこにどれほどの価値の不動産を保有しているのかについて理解する必要があります。さらに、保有不動産について保有目的、立地、規模、取得時期、簿価、時価、修繕履歴などを含むデータベースを構築することが求められてきます。近ごろ不動産戦略と企業経営を有機的に結びつけていく考え方であるCRE(企業不動産)戦略が注目されてきていますが、データベースの構築はその第一歩ともいえるでしょう。
原田
IFRSは不動産をはじめとする資産の公正価値測定を行う、時価主義的な性格の強い会計制度です。財務諸表の内容は単年度ではなく、複数年度を通じて動態的に変動するようになります。企業の財務的側面に対する視点の変化を踏まえた形で、中長期的な経営計画の策定が必要になってくるはずです。IFRSの導入は、経理レベルの課題としてとらえるのではなく、経営の重要課題と認識すべきなのです。
企業の保有する不動産が受ける影響も忘れてはなりません。国内の企業不動産は総額490兆円に上るといわれています。財務諸表でいえば、総資産の30%以上を超えるアセットが不動産です。不動産の公正価値が評価されるようになれば、日本企業は資産のあり方について考え方を変えなければならなくなるのは間違いありません。IFRS導入に向けて、経営者はさまざまな課題に直面することになるでしょう。

――不動産の公正価値を測定する際、何に気をつければいいのでしょうか。

村木
自社の賃貸等不動産に対してどのような評価方法を採ればいいのか、どれくらい手間をかけるのかについて、真剣に検討し始めている企業がIFRSのコンバージェンスの実施が近づくにつれ、かなり多くなってきていると感じています。国土交通省の「価格等調査に係るガイドライン検討小委員会」では、財務諸表の作成や企業会計に関連して不動産鑑定士が価格調査を行う場合について検討しています。そこでは不動産鑑定評価基準にほぼ則って精緻に行う評価(原則的時価算定)と、調査、評価する内容を依頼者と確認したうえで、目的によって調査内容や鑑定評価の手法の一部を省略できる評価(みなし時価算定)を分けて考えています。例えば、固定資産の減損の兆候を調べるための評価はみなし時価算定でもよいが、減損損失の算定の場合や賃貸等不動産の時価の評価の場合などは原則的時価算定が必要とされています。
ここで、企業にとって若干頭が痛いのは、対象となる自社保有の不動産のどの範囲までを「重要性の高い不動産」として原則的時価算定を行うか判断を企業自身に委ねられていることです。いまのところ、すべての賃貸等不動産を原則的時価算定の対象としようとしている企業もあれば、一部のみにとどめようとしている企業もあります。
いずれにせよ、IFRSへのコンバージェンスが実施される来年3月までには、すべての賃貸等不動産のうち何割程度評価するか、モデルとなるケースがいくつか出てきて、事実上それがスタンダードになっていくのではないかと思います。
新しい会計基準によれば不動産評価自体は自社内のスタッフで行っても差し支えないことになっています。しかし、財務諸表に載せるデータですから同じ評価額が出たとしても、内部で行った評価と外部の不動産鑑定士が行った評価では、「客観性」「信頼性」が異なると思います。特に市場インパクトの大きい重要な不動産については、一般論ですが、外部に評価を委ねたほうがよいのではないかと思います。
原田先生、すでにIFRSを導入済みのヨーロッパにおいては、このあたり実態はどうなっているのでしょうか。
原田
アーンスト・アンド・ヤングが欧州を中心とした大手不動産会社に実施したサーベイでは、27社中25社が公正価値モデルを採用し、その全てが外部鑑定士を利用していました。IFRSは外部評価を義務付けていませんが外部鑑定士の利用が一般的なようです。内部評価を行っている会社もありますが、その場合も重要な物件については鑑定評価書を入手し内部評価の検証に利用していました。
IFRSの導入により鑑定評価書が財務諸表の作成に利用されるケースが増えると思いますが、会計監査を行う立場から申し上げると、鑑定評価書を作成する不動産鑑定士の能力や組織体制を見極めることが重要になってくるでしょう。
村木
国のガイドライン策定を受けて、現在不動産鑑定業界においても、業者としての内部体制整備等について検討が行われています。また当社におきましても、以前からISO9001並びにISMSを認証取得しており、認証機関の外部監査を経ることにより、品質保持向上、情報管理の強化に取り組んできました。今回の賃貸等不動産の時価評価導入をきっかけに、さらに内部組織体制の見直しの強化を行っています。

CRE戦略の重要性認識の高まり  不動産鑑定業者との信頼関係の構築

経営者が陣頭指揮を執り不動産価値の最大化をめざすべき

――経営者や財務担当者は会計基準が大きく変化していくなか、企業不動産に対してどのような姿勢で取り組めばいいでしょうか。

原田
公正価値に基づく不動産評価が始まれば、企業価値が大きく変化していくことは間違いありません。不動産が市場の影響をダイレクトに受ける資産に変化してしまうからです。
経営者の務めとして企業価値の最大化をめざしていくためにも、不動産を保有するか、それとも手放すかについて、これまで以上にシビアな意思決定が求められてくることでしょう。保有し続けるとしても、自ら管理・運用するのか、それともアウトソーシングしてプロに任せるのか、まだ十分な判断が出来ていない企業が多いと思われます。
経営者は陣頭指揮を執り、不動産の価値を最大化させる企業経営をめざすべきだと考えます。
村木
CRE戦略の重要性認識は徐々に広まってきています。しかし、実際にアクションを起こしている企業はそう多くありません。繰り返しになりますが、昨今の時価会計の動きをきっかけに保有不動産のデータベースを整備し、経営の視点で不動産戦略を構築し、継続的に見直していく仕組みサイクルを作り上げることを実際に行う企業が増えてくることを期待します。
保有不動産について、企業が難しい課題に直面し、何らかの判断を下さなければならない場面は、これからもっと増えてくるでしょう。その際、相談のできる不動産鑑定士や不動産コンサルタントをパートナーとして選ぶことは、非常に重要になってきます。不動産の公正価値評価は、1回で終わるわけではありません。企業が存続している限り継続的に行うべきもの。だからこそ、監査法人と同じように企業と不動産鑑定士との信頼関係が重要になります。
私たち不動産鑑定業者も鑑定評価書を発行するだけでなく、不動産に関連するお客様のさまざまな課題にお応えできる、信頼できるパートナーでありたいと思っています。
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