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特集 東京の不動産マーケットを活性化する

東京の不動産マーケットを活性化する ―投資スキームのフレキシビリティと不動産投資インデックスの整備を―

日本、特に東京の不動産マーケットの売買取引は急速な低下が続いている。しかし一方では、世界の主要都市における東京のオフィス市場規模はパリやニューヨークを押さえてトップになっており不動産証券化ニーズは根強い。また、国内総資産の1/4にあたる約2300兆円が不動産資産といわれ、国内景気の向上のためには不動産マーケットの活性化が急務といえる。東京の不動産マーケット活性化について、3人のプレーヤーがそれぞれの立場から語った。

3人のプレーヤー

「証券化」実質始動は98年今は「辛抱」の第五段階

鑑定評価会社も中長期的視点から積極的に情報発信 ―船越氏―

船越
日本の不動産証券化の本格的なスタートは、1998年の「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(SPC法)」の施行だと考えられます。同法で特定目的会社(TMK)が不動産の運用収益を裏づけとした証券を発行する場合の制度やルールが定められました。2000年にはSPC法が緩和された「資産の流動化に関する法律」が施行され、証券化業務が一層やりやすくなりました。当時の証券化を行うインセンティブとしては、資産の原所有者が債務圧縮のためバランスシート改善を目論んだものが中心で、実物不動産の証券化が市場で本格的に動き出したのもこの頃からです。
網野
物件価値を図る手法として、収入から運営経費などを引いた純収益を還元利回り、つまり価格の変動リスクなどを織り込んだキャップレートで割り戻す「収益還元法」が取引現場で積極的に使用されるようになったのも、ちょうど2000年あたりでした。
船越
そうですね。鑑定評価の現場でも収益還元法が評価手法の中心となり、私たちも真剣に勉強したことを覚えています。ここまでが日本の不動産証券化の第一段階。第二段階は01~02年のREIT(不動産投資信託)の誕生。第三段階はREITのファンドオブファンズが解禁されREITの普及期となった03~04年。第四段階はREITの上場ラッシュの一方、公募価格割れの銘柄も出るなど、監督官庁が市場動向に注意を払い始めた05~06年。この頃は通常の鑑定評価では説明困難と思われる高値の取引も一部で見られました。
証券化の対象物件は、初期のころは誰もが知っているオフィスビルや商業施設が中心でしたが、第四段階あたりになると地方を含めた中小規模の物件が多数登場します。しかし、その後は様相が変わります。REITの新規上場は07年10月以降、途絶えています。サブプライム問題とリーマン・ショックで、08年秋から市場環境は一気に悪化しました。日本の不動産証券化市場は「辛抱」の第五段階にあると見ています。
加畑
リーガル面での最近の大きな動きとして、07年9月の金融商品取引法の施行で、匿名組合出資を受けたSPCが行う不動産信託受益権への投資とそのようなSPCへのアセットマネジメント業務の提供が規制対象に加わりました。これにより、海外の不動産私募ファンドなどが投資する際のストラクチャリングが難しくなった面があります。

大和不動産鑑定株式会社  東京本社鑑定部次長  船越毅氏
大和不動産鑑定株式会社
船越毅氏

「収益還元法」にはさらなる理解が必要

スキーム構築の障害となっている法制度の見直しを ―加畑氏―

アンダーソン・毛利・友常法律事務所  弁護士  加畑直之氏
アンダーソン・毛利・友常
法律事務所
加畑直之氏

網野
日本の不動産証券化市場の停滞には、金融機関の融資姿勢の厳格化も大きな要因といえます。レンダーの金融機関が融資に慎重なため、リファイナンス(ローン借り換え)を含めて、証券化スキームの組成・維持が非常に難しくなっている現実があります。
世間の評価であるマーケットバリューとレンダーが査定するレンダーバリュー。現在は、両者の乖離がかなり広がっているという印象を受けます。なぜ、このような状態に陥ってしまったのか。一つには、先ほど申し上げた収益還元法に代表される新しい評価方法が、すべての市場参加者にまだ浸透していないことが挙げられるでしょう。
収益還元法には、「純収益」と、不動産の価格変動リスクをプレミアムの形で織り込んだ「キャップレート」という2つの変数があります。双方の数値の取り方次第で最終的な査定結果は大きく異なってきます。例えば、市場が強気のときに非現実的な収益予想を立て、それをもとに収益還元法を用いると、通常の鑑定評価では説明がつかない結果が出ます。
一方、例えばレンダーが、マーケットのネガティブなイメージに引きずられて過剰なリスクを前提に物件価値を算出すると、融資対象がなくなるほどの厳しい結果となります。
船越
証券化市場がスタートした当初、オフィスビルのキャップレートは5~6%程度(イールドギャップは3~4%)という認識があり、商業施設や住宅、ホテルなどであれば、これにリスクプレミアムを上乗せしたキャップレートを用いていました。
網野
収益還元法の理解においてキャップレートという言葉が一人歩きして、単純利回りのようなイメージで使われてきたんですね。ただ、現在では証券化案件もだいぶ増えてきましたので、キャップレートについて関係者が議論を高める必要があると思います。
船越
商業施設やホテル等のオペレーショナルアセットは、管理・運営の難易度が高いため評価人の見方によって物件価格に差異が生じやすいです。一方、オフィスビル等の賃貸用不動産は見方の違いによる差異は比較的少なく、リスクも相対的に低いです。今のように市場が冷え込んでいると、賃貸用不動産に投資が集中する傾向にあります。
加畑
証券化商品の情報開示と不動産に関するデータの整備についても改善の余地があると思います。開示の面についてはサブプライム問題を機に世界的に議論がなされており、日本では昨年四月施行の金商業者向け監督指針の改正や、近時に施行予定の日本証券業協会の自主規制規則で具現化されつつあります。
これらは主として証券化商品の原資産のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するための体制整備や開示フォーマットの標準化を志向するもので、結果として証券化商品を安心して購入できる環境が整い、不動産市場への資金流入を促進すると一応期待されます。
もっとも、開示が進んでも、開示された情報の比較対象がなければ実効性に乏しく、わが国はそのような不動産市場のマクロデータが不足しているといわれています。この点は、日証協の証券化商品の販売に関するワーキンググループにおいても指摘されていたところです。
網野
投資家側からすると、不透明さはリスクとしてカウントされます。本来あるべき価値が適切に評価されないのはマーケットにとってマイナスだと思います。不動産が投資商品化されたのですから、やはり比較・検証するための物差しが必要だと思いますね。

配当損金算入要件などTMKのルール緩和も

信頼性とタイムリー性を備えた指標を政策的に構築 ―網野氏―

アメリカン・アプレーザル・ジャパン株式会社  網野茂樹氏
アメリカン・アプレーザル・
ジャパン株式会社
網野茂樹氏

船越
評価の立場から、海外プレーヤーとのREIT立ち上げのお手伝いをしたことがありましたが、情報の不透明さの要因もあってか、彼らは引き上げてしまいました。日本の不動産関連の情報インフラは、証券化市場の拡大によって十年前に比べ進化したことは間違いありません。ただしそれがグローバルで通用するものかどうかは別。将来的には一定の強制力のあるルールのもとで展開していくことが必要かもしれません。
加畑
REITや不動産証券化商品の開示書類においては物件の営業純収入(NOI)やネットキャッシュフロー(NCF)などが開示されているケースがありますが、市場全体としてこれらの定義は必ずしも統一されておらず、物件間のパフォーマンスの比較・検証が容易でないという議論もあります。
これらの問題は、先に述べた監督指針や日証協の自主規制規則の制定・施行によって対応されるものではなく、不動産業界全体の問題として、例えば各市場参加者の代表が参加するタクスフォースなどによって検討し、解決していくことが望ましいのではないでしょうか。
網野
証券化商品の比較・検証するための物差しとして、海外には歴史と権威のある不動産投資インデックスが存在します。米国では非営利団体の全米不動産投資受託者協会(NCREIF)が、英国では株式会社組織のIPD社がそれぞれ80年代よりインデックスを公表しており、年金基金などの投資家が不動産投資に際して参考にしています。
信頼性の高いインデックスをつくるには、公正な運営のもと、継続的に公表されることが大切です。公表時期も月次ベースなどタイムリー性が求められます。いくら情報開示が進んでも、その数値どうしを比較できなければ、情報開示の意味が薄れます。日本では政策としてインデックスの構築を推し進めていく必要があるのではないでしょうか。
加畑
投資スキーム構築の障害となる法規制についても再検討の時期に来ているのではないかと思います。厳しい市場環境にあるからこそ、投資スキームのフレキシビリティを確保して、不動産に投資したいと考える投資家の意欲を削ぐような事態は避けたいところです。
例えばTMKの配当損金算入要件の一つとして、機関投資家がTMKの発行する特定社債の全額を引き受けていることが事実上要求されますが、昨今の金融情勢を鑑みれば、デット性資金を調達せずに、フル・エクイティで投資するケースも想定されます。新たな投資家層として期待されるイスラム系の投資家に関しては、投資先ヴィークルがデット性の資金を調達していること自体が利子を認めない教義の関係で投資の障害になり得ます。
また、TMKの配当損金算入要件でもう一点、特定社債と優先出資の募集はそれぞれ主として国内において行われていること、という項目があります。これも海外投資家のみが投資家になるような案件のストラクチャリングの障害になっており、緩和が望まれるところです。
船越
日本、とくに東京の不動産市場の活性化には、不動産インデックスの整備など市場参加者自らが積極的に推進すべき課題が少なくありません。私たち鑑定評価会社も中長期的な視点から東京マーケットの発展のために積極的に情報発信していきたいと思います。
網野
一般に、海外の年金基金がグローバル分散投資する場合はアジアポジションがあります。ではアジアの中の分散投資先としてはどこがよいか。制度の安定性や金融機関の成熟度などを勘案すると、まだまだ東京マーケットは延びる余地があると見ています。
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